世の中で、漠然と投資を捉えている人は、投資とはギャンブル的なもので、当たれば一攫千金、というようなイメージを持っています。

また、よくメディアに「投資で3億円稼いだ」などという人が登場するために、余計にそういうイメージが固定しています。

一応、職業としてトレードをしていると、何か「もの凄い稼いでる」と思われがちなんですが、全然そんなことはありません。
というか、誰しも、なんとなくレベルでは「一攫千金、億円単位で儲かったらいいなぁ」という希望を持つ、夢を持つのは当然なのですが、現実的に考えて、それが可能か、というと、また話は違ってきます。

私にもそういう希望がありますが、正直に言うと、私は
ものすごい小心者なのです(笑)

理論上、100万円儲かるトレードができる技能があるなら、当然、その建玉を10倍にすれば1千万円儲かる、100倍にすれば1億円儲かるわけです。
しかし、理屈はそうなのですが、人間というのは面白いもので、100万円ならちゃんとトレードできても、1千万円ならばうまくいかない、ということが往々にしてあります。
もちろん、これは心理的な問題によるもので、言うなれば
トレードのスケールが身の丈に合っていない
から起きる問題です。

私の場合は、千万円単位なら、まだなんとか(精神的に)大丈夫(かなりあやしい)だけれど、億円単位になったらもうヤバい、という「身の丈」です。
それも、通常目指しているのは「普通に苦労しないで生活できるだけの稼ぎ」という欲のないもので、たまたま相場状況が良いときは、大きく儲かることあるので家を建てたりしましたが、あくまでもそれは「偶然の幸運」に過ぎず、目指したものではありません。

たとえば宝くじで億単位のお金を当てた人の多くが、その後に生活がおかしくなって破綻するとか、トレードで偶然億単位の利益を上げた人が、その後破産した、などという話は、非常によく聞く話です。
メディアというのはプラス面にしか光を当てませんので、「宝くじで3億円当たっていいなぁ」とか「トレードで何億儲けていいなぁ」と思わせるような話ばかりが出てきますが、そういう人の「その後」を詳細に調べると、大半が破綻していたりします。
実際、宝くじで高額賞金を当てた人の、人生の破綻率は非常に高いのですよね、破綻しなくても、嫌になって最後には慈善団体に全額寄付した人とかたくさんいます。
そういう事実からしても、私に限らず、ごく平均的な庶民の一般水準として「突然の億単位」は、「身の丈にあわない大きさ」と言えると思います。

たとえば事業を興してじっくり稼いでいき、次第に億円に近づくなら、同時に耐性もできていくのでしょうが、あまりに急激に億円儲かると、心理がついていかなくなります。

もちろん、何億円を取り回しても、全然平気なトレーダーもいますけれど、そういう人はあくまでも特殊な人種だと思うべきで、果たして
自分にあう身の丈はどのぐらいなのか?
ということは、きちんと考えるべきでしょう。

そもそも、資金が数十万円しかないのに、億単位を儲けたいなんて初心者の希望はどだい強欲が過ぎる話です。
著書にも書いたように、プロの相場師でも年間10%儲かれば相当に「良い」、30%は幸運の産物、などというレベルですから、資金が500万円なら、50万円の利益、その程度のレベルを目標とすべきです。
あくまでも「目標」の話で、それ以上稼ぐな、という意味ではありませんから、50万円を目標にしていたら1千万円儲かることもあるでしょうが、1千万円を目標としてはならない、ということです。

また、トレードというのは「うまくいく時期」というのが必ずありますから、そういうときは、かなり早いペースで資金がどんどん増えていきます。
こういうときは、金額の大小にかかわらず、自信過剰になって欲をかき、注意しないと必ず失敗しますので、あえて目標を小さく持つべきです、稼ぐというより「この増えた資金を減らさない」というぐらいでちょうどいいと思います。

いずれは億円稼ぎたい、という「夢」を持つのは当然良いですし、私もバフェットのような億万長者になりたいですが、「夢」はあくまで「夢」で、「目標」は違います。
いや、最終目標が1億円というのは、ある意味で切磋琢磨する原動力になるので良いのですが、それはあくまでも「最終」であって、「当面の目標」は別に設定すべきです。
資金が50万しかないなら、まずは100万を目標とするべきで、次は500万、1千万、と段階的に引き上げていくべきなのです。
少しずつ増えていけば、同時に金額に対する精神的な耐性もついてきます。

自分で言うのもなんですが、小心者の私が、長くトレーダーを続けられるのは、この「身の丈にあった目標を持って、欲をかかない」ためだと思っています。
もちろん、初期には身の丈にあわない目標を持って、何度も大損失をやらかした経験があります。

トレードに「強欲」は絶対に御法度で、面白いことに欲を出したとたん、たちどろころに失敗するのがトレードというものなのです。

急がば回れ
という言葉もあるように、ゆっくり地道に進んでいくことが、結局はゴールへの一番の早道だと思います。



ただし、注意してください。
井上陽水の歌に
「限りないもの、それが欲望」
という歌があります。
トレードの世界では、3億円を目標として3億円儲けた人は、ほとんど全員が、そこで引退しません。
3億円儲かったら引退して悠々自適の生活を送るよ、などと宣言していた人でも、まず引退はせず「3億儲かったんだから、次は10億儲けよう」となるのがトレードの欲望泥沼世界なのです。
そうして、最後は破産した人、自殺した人がどれほど多いかは、
4度以上の破産を経験し、「私の人生は失敗だった」と書き残して最後は拳銃で頭を撃ち抜いて自殺した、伝説のトレーダー、ジェシー・リバモア
の例を引き合いに出すまでもないでしょう。